東京高等裁判所 平成9年(ネ)4289号 判決 1998年2月04日
第四一八四号事件控訴人(第一審被告) 富士火災海上保険株式会社
代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 宮川博史
第四一八四号事件被控訴人・第四二八九号事件控訴人(第一審原告) X
訴訟代理人弁護士 村本道夫
同 岩渕正紀
同 東松文雄
同 奈良輝久
同 和田希志子
第四二八九号事件被控訴人(第一審被告) 千代田火災海上保険株式会社
代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 田邨正義
同 佐野真
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 各控訴費用は、各控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 第四一八四号事件について
1 控訴人
(一) 原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。
(二) 被控訴人の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
二 第四二八九号事件について
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二)(主位的請求)
被控訴人は、控訴人に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成六年一月五日から支払い済みまで年六分の割合による金額を支払え。
(三)(予備的請求)
被控訴人は、控訴人に対し、一〇五〇万円及びこれに対する平成八年一二月三一日から支払い済みまで年五分の割合による金額を支払え。
(四) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
(五) 仮執行宣言
2 被控訴人
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり、原判決の記載を補正し、控訴人富士火災海上保険の当審における新主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決五頁三行目の「相続人である」を「相続によりCの法律上の地位を承継した」と改める。
2 原判決七頁六行目の「定めがある」の次に「(以下「自損事故条項」という。)」を加える。
3 原判決九頁六行目の「混同により」を「、原告が右請求権とともにDのCに対する損害賠償債務も相続したことにより、これと混同して」と、一〇頁四行目の「債務」を「請求権」と、それぞれ改める。
4 原判決一二頁四行目の「保険約款」の次に「の自損事故条項」を加え、一二頁一一行目及び一三頁一行目の各「規定」をいずれも「自損事故条項」と改め、一五頁二、三行目の「保険約款」の次に「自損事故条項」を加える。
二 控訴人富士火災海上保険の当審における新主張
1 信義則違反の主張
本件のような場合において、仮に、夫であるDが生存していた場合には、夫であるDが妻であるCの相続人としてモトイ産業ないしはその自賠責保険会社に対し、運行供用者責任による損害賠償請求ができる可能性もあるが、これは妥当ではなく、右の考え方を敷衍すると、信義則上、本訴請求は許されないものと解すべきである。
2 減額の主張
仮に、モトイ産業のCに対する運行供用者責任が認められるとしても、本件事案に鑑み、その請求は認められないか、損害額を大幅に減額すべきである。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、第一審原告の本訴請求は、第一審被告富士火災海上保険に対し、損害賠償金として一六六一万円及びこれに対する本件事故の発生の日の後である平成六年一月五日から支払い済みまで民法が定める年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余はすべて理由がないから、これらをいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は、次のとおり、原判決の記載を補正し、控訴人富士火災海上保険の当審における新主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決一六頁九、一〇行目の「原告の相続による混同に基づき」を「、原告が右請求権とともにDのCに対する損害賠償債務も相続したことにより、これと混同して」と改める。
2 原判決一九頁三行目の「である」の次に「(なお、控訴人富士火災海上保険は、最高裁判所昭和四八年一月三〇日判決・裁判集民事一〇八号一一九頁を援用して、Cの運行供用者性に関する右の判断が不当であると主張するが、その援用する最高裁判所判決は、甲所有の自動車を友人関係にあった乙・丙夫婦が借り受け、雇人の丁に運転させていた事案について、乙・丙夫婦をともに運行供用者であるとしたものであって、右控訴人がその主張の前提としている「甲が乙に自動車を貸し、乙がその妻丙を同乗させていた」との右判決に係る事案の把握は誤りであるから、右主張はその前提において既に失当である。)」を加える。
3 原判決二〇頁三行目の「債務」を「請求権」と、一一行目の「判例時報六九五号六四頁」を「・裁判集民事一〇八号一一九頁」とそれぞれ改め、二一頁三行目の「これを」から五行目の「参照)。」までを削る。
4 原判決二一頁一〇行目の「第二」の次に「の」を加え、二二頁六行目の「生ジタル」を「生シタル」と改める。
二 控訴人富士火災海上保険の当審における新主張に対する判断
1 信義則違反の主張について
控訴人富士火災海上保険の右主張は、それが全くの仮定的な事実に立っての主張であるというばかりでなく、その主張に係る仮定事実に基づくとしても、母であるCのモトイ産業に対する損害賠償請求権を相続した原告において、自賠責保険会社である控訴人富士火災海上保険に対し、自賠法一六条一項に基づいて損害賠償を求めることが信義則に反するなどとは到底考えられないのであって、およそ的外れな主張というほかはない。
2 減額の主張
控訴人富士火災海上保険の右主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、それがいわゆる好意同乗による減額の考え方と同趣旨のものとしても、本件において、Cのモトイ産業に対する損害賠償債権の額を減額すべき事実関係を認めるに足りる証拠はない(なお、付言すれば、自賠責保険においては、その運用においてであるが、好意同乗による減額の考え方を採用していないことは当裁判所に顕著な事実である。)。
第四結論
以上のとおりであるから、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 川勝隆之)